「かわいい花が咲いたから、名前を教えといてあげる。」
二年前の今日、仕事を辞めてここに戻ってきたばかりの私に、女将が見せてくれた花。
この花を2人で眺めていると、女将が静かに言いました。
「遺影用の写真がないと困るから、抗ガン剤を使ってやつれる前に、写真を撮ってよ。」
娘に、「遺影を撮って」という母親の気持ちは一体どんなものでしょうか。
「死ぬ気はしない。」と言いながらも、あの時にはもう覚悟を決めていたのだな。と思います。
それから一年。去年の今日、静かに息を引き取りました。
出棺の日の朝、ふと庭に目をやると、やはりこの花が可憐に咲いていました。
今年は、今までで一番多くのツマトリソウが咲いています。
庭のシャクナゲの下。いつも草むしりをしていた母の姿と重なります。
庭や山、野に咲く花を見る度に、写真なんかよりもずっとリアルに、様々なことを思い出せる。そういうものをたくさん遺してくれた母に感謝。